日記 「初陣」


戦争とは歩くものかと思うほど地平線を望みながら広野を十日、山地を二十日とただ歩く。歩く。
宿営地に着けば装具を投げ出し、炊さんのためビッコをひきながら豚や鶏を追いかけ、翌日の支度を済ますと今度は足の豆の治療だ。
終わったと思ったらもう出発。
毎日同じ事の繰り返しが続き、頬をだして歩き続ける。
そして約一ヶ月、麦畑を行進中、突然右前方の小高い丘から射撃をうけた。早速、応戦、こちらは低く地の利が悪いので左前方の台地に進出したいが、幅三十メートルの川がよこたわっている。水面スレスレの幅の狭い橋を渡らなければならない。
この橋は、敵に丸見えである。このとき左前方の台地に進出するように中隊長の命令がきた。
いよいよ橋をわたらねければならない。私は短距離の選手をしていたので脚力には自身があった。日ごろ鍛えた脚力を発揮するのはこの時だと、小隊の先頭に立ち全速力でこの橋を渡った。待ち構えていた敵は機関銃で撃ってきた弾丸が川に当たって三十センチぐらいの水柱が私の前後を連続して追いかけたこれが見習士官小隊長の初陣だった。
隊員は一人ずつ重い背嚢を負い、銃を持ち水柱に追いかけられながら全力でこの橋を渡った。

幸いに全員無事だった。


(参考文献は最終回に出します)

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