あの特火点を奪え!

三月の初旬のある日、第一大隊はかなりの時間を費やして
進撃準備をしていた。
私の第十中隊第一小隊は稜線の
最北端、右下には蛇行する川が見え、その先の谷を隔て
た山の頂上に石を高く積み上げて作った特火点があり、
それが第一大隊の進路を阻んでいたのである。
銃眼から絶えず吹き出している赤い火を見るうちに、
私は一種の覚悟のようなものを心に抱き始めていた。
大隊の進撃再開には、あの特火点を誰かが撲滅しなけ
ればならない。その誰かは自分であろう。私はそう硬
く信じるようになっていた。わたしが一番特火点に近
いところに居たからである。

予想は的中した。直ちに同行するもの十名を選抜し、
斜面を降りきったところで背嚢をおろさせた。そして
特火点が頭上高く見えるところまで来た。私達は急斜
面を石にすがり、草を掴みながらのぼった。私は三番
目に登り、前を追った。頭上近く二、三発の手榴弾が
青空に弧を描いて飛んでいった。

特火点はすでにもぬけの殻だった。二百メートルほ
ど前方に四、五人の敵兵が転ぶように逃げて行く。
みると百メートルほど先にまた同じような陣地がある。
私は前進したい衝動に駆られたその時!私達に向かっ
て急降下してくる友軍機が目に入った。投下された爆
弾は僅かなところで目標を外れた。が飛行機は再び急
降下爆撃の体勢を取ろうとしている!私は慌てて鉄帽
を脱ぎ日の丸の旗を懸命に振った。見事成功!飛行機
は大きく翼をふりながら飛び去った。

こんな所に長居は無用と私は走って陣地の中に飛び
込んだ

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